だう。語りき。

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「ウインダリア」(1986)を観た

この数年、20世紀のアニメに興味津々だけど観る機会を作ってこなかった私。

ようやく、気になっていた作品を鑑賞できたのでその感想などを書き連ねます。

多数のネタバレを含みますので、ご了承ください。

 

 

 

1.『ウインダリア』について

ウインダリア』は1986年7月に公開されたアニメ映画。

当時、新進気鋭の制作会社として上り調子だったカナメプロダクションが、多数のアニメ脚本を手掛けていた藤川桂介にストーリーを委託し制作された作品です。

藤川は『雨月物語』の一篇「浅茅が宿」を下敷きにしたオリジナルストーリーを構成、“約束”をテーマに架空の世界を舞台として戦争に翻弄された2組の男女の愛をファンタジックに描きました。映画上映に先駆けて小説も刊行されました。

本編の主人公・イズーを演じたのは古谷徹さん。ヒロインのマーリンは当時デビュー3年目の神田和佳さんが演じました。そのほか、永井一郎さんや若本紀昭(現:規夫)さん、柴田秀勝さん、矢尾一樹さんなどもキャスティングされています。

また、現在もアニメ音楽で活躍する新居昭乃さんは、この作品の主題歌「約束」/「美しい星」がデビュー曲でした。

 

ウインダリア』のあらすじ(結末含む)はこちらから。

 

 

2.効果的な対比

物語は村人の葬儀のシーンから始まります。宵闇の空を行く黒い飛空艇、その飛空艇を目指して死者の元から飛び立つ赤い鳥。幻想的でありながら不気味さを感じる場面だが、この物語全体を象徴するシーンです。

アニメ関連の書籍を多数持つ小黒祐一郎氏によれば、この作品は「普遍性のあるものを作りたい」という思いの元、作られたそうです。その普遍性は、物語の前後半に対比的かつ象徴的な場面をいくつも散りばめ、分かりやすく提示することで結実したと感じました。

 

物語序盤、軍事大国・パロからのスパイによって故意に開けられた水門を閉め、イサを水没の危機から救った主人公・イズー。彼がその後パロに雇われ、イサの水門を自らの手で開放し街を水没させてしまうシーンは、戦争が引き起こす人間の心の変わりようを皮肉的に描いています。

 

また、ものすごく細かいのですが、イズーがイサの水門番のところへ野菜を届ける直前、妻のマーリンにキスを交わし「お前が世界で一番だよ!」と調子よく叫ぶシーンがあります。彼はその後、パロに雇われ、前述の功績によって酒池肉林を得るのですが、報酬として得た美女を抱き、贅を尽くすイズーの姿にはむなしさを禁じえません。

 

物語の序盤では恋仲にあったイサの王女・アーナスとパロの王子・ジルが両国の境にある迷いの森で密会するシーンもまた、後に描かれる二人の最期をより悲劇的に描く効果を出しています。ちなみにこの密会のシーンで流れる新居昭乃さんの「約束」も効果的。サビ部分の歌詞「Why 愛してるけど/Why 離れてくけど/Why 僕だけを見て」はアーナスとジルを繋ぎとめていた共通の思いだったのだと感じます。

 

あと一つ印象深かったのが、中盤以降多く描かれる戦闘シーン。パロ軍は銃や戦闘機などの兵器を用いる一方、市民兵が主戦力であるイサはボウガンや槍など先時代的な武器を用いて戦います。その反面、パロ軍兵が怠惰的になっており、イサの市民兵がよく訓練をこなしているさまも描かれます。この対比も両国の違いを明確に表しています。そしてこれらの対比は、人々の“死”を、リアリティをもって描くことに繋がったと感じました。

この“死”の描写がおろそかになってしまえば、劇中に描かれた悲劇は悲劇として成立しえなかったことでしょう。また、この物語の象徴である幽霊船と赤い鳥も、説得力に欠けた存在になっていたかもしれません。

 

 

3.いのまたむつみさんのおっさん、じいさん

さて、『ウインダリア』の魅力といえば、作画監督にもなっているいのまたむつみさんの描くキャラクターもその一つ。マーリン、アーナス、そしてシャレムという三者三様のキャラの組み合わせは言うなれば“いのまたむつみの幕の内弁当”であります。あ、ドルイドもいるので四者四様ですかね。

ですが、いのまたさんの描くおっさんやじいさんもまた、味のあるキャラだったりします。確か『精霊ルビス伝説』(文庫版)のあとがきだったと思いますが、彼女は久美沙織さんとの対談の中で「じいさんを描くのが楽しい」的な発言をしています。美形キャラにはない何かがあるそうな。

ウインダリア』のおっさん・じいさんキャラといえば水門番のピラールでしょう。うたた寝するピラール、押し寄せる水流に慌てるピラール、安どするピラール……決して多くない登場シーンの中で彼は実に多彩な表情を見せてくれます。美形キャラの表情が微妙な変化である分、ピラールじいさんは表情が極端。ああ、そうか、これは描いてて楽しくないわけがない。

あと、主にパロ軍の兵士はおっさん顔のキャラクターが満載。美形じゃないキャラの豊かな表情も見どころだと思います。

 

4.おわりに

個人的な話ですが、この作品を知ったのは新居昭乃さんの楽曲『約束』『美しい星』が先でした。2曲とも作品の内容を知らなくても十分に良い楽曲だと感じましたが、物語を知るとより一層、楽曲の良さを感じることができました。あえて触れませんでしたが、ラストのスタッフロールとともに流れる『美しい星』はその歌詞の中身をかみしめながら聴くことで、鑑賞後の感動がより豊かになることでしょう。

これからまた暇を見つけて、アニメ見よう。そうしよう。