だう。語りき。

だう。という人が音楽とかプロ野球とかドラクエとかその他自由に語るブログなのだそうです。

村野真朱/依田温『琥珀の夢で酔いましょう』①を読んだのだ

こんにちは、だう。です。

今回は原作:村野真朱、作画:依田温のマンガ琥珀の夢で酔いましょう』の第一巻を読んだので、その感想を書き連ねてみます。

 

琥珀の夢で酔いましょう | MAGCOMI(マグコミ)

 

ネタバレは……含むかな? たぶん、含んでます。

 

 

 

1.クラフトビールのマンガ

はじめに言っておくと、この作品は近年の主流になりつつある”情報発信型”のグルメマンガ。このタイプのマンガは作者自らがレポーターとして登場することも多いのですが、『琥珀の夢で酔いましょう』(以下、『こはゆめ』)は京都を舞台としたオリジナルストーリーです。

 

そしてメインテーマとして取り扱われるのはクラフトビール。近年様々な種類が出回っていますが、日本酒や焼酎など他のアルコール嗜好品に比べると歴史が浅く、ニッチな印象があります。しかしその分、作品を通して新たな発見が多くあるのではないかという期待も高まります。

 

第一巻(全5話)で登場したクラフトビールは13種類。2・3話では話の行きがかり上複数のビールが登場しましたが、基本は1話1種。毎回、物語に添える形でグルメマンガ研究家の杉村啓氏によるビールの解説コラムが入ります。このコラムこそマンガと表裏一体を成すキモなのですが、ビールに関するウンチクや物語内に出てきた小物についてのプチ情報が嫌味なくまとめられています。読み飛ばしても全く問題ありませんが、ちゃんと読むとビールの知識を得られるのはもちろん、物語をより立体的に捉えることができるのがポイント。いいバランスです。

 

 

2.つかず離れずのバランス

主人公の七菜派遣社員の広告デザイナー。出身地ではない京都で、できすぎてしまうが故に正社員と溝が生じ、強張った表情で日々を過ごしています。そんな彼女の日常を変えたのが、偶然見つけた開業間もない創作料理屋「白熊」の店主・隆一とその客として先に来店していたプロカメラマンの鉄雄、そして1杯のクラフトビールとの出会いでした――。

 

物語の主軸となるこの三人、不思議なバランスで関係が成り立っています。物語は京都の街を舞台としていますが、生粋の京都人は鉄雄だけ。しかし鉄雄はカメラマンという職種柄、世界各国を転々としていたという背景を持っています(第4話では「勝手知ったるつもりやったけど忘れてること多いな」と語っている)。

七菜は山梨出身で、まだ京都には馴染み切っていません(第1話の「京都って個人店ばっか点在しててよそ者には探しにくいよ」というセリフが象徴的)。

そして高知出身の隆一は土佐弁が抜けていない口調ながら、料理では京風の出汁を使いこなし、初対面の七菜と鉄雄に京都のクラフトビールをすすめたり、地ビールイベントの会場で地元の人々とすぐに打ち解けるなど、“今”の京都に最も溶け込んでいます。

 

京都と三人の“距離感”がそれぞれ微妙な違いを見せているのは、単なるキャラ作りの問題なのでしょうか。いずれこの“距離感”が物語にも何らかの形で表れてくるのではないか……と推察してみたり。

そしてもう一つ調べてみてわかったことですが、隆一の故郷・高知はクラフトビール新興国。4~5社の醸造所を抱える京都や山梨に比べると、高知は昨年唯一の醸造所ができるなど、クラフトビールの歴史は浅め(日本経済新聞:2018年4月19日記事参照)。これもストーリーの今後を左右する何かになるかなーと思うのは、果たして深読みしすぎうか。でしょうね。

 

 

3.グッときたシーン

1巻の中で最高にグッときたシーン、それは第3話「パラダイス麦酒」での一コマです。

地ビールのイベントに訪れたもののすぐに散り散りになる3人。それぞれ思い思いのままに行動してビールや人と巡り会い、再び3人が合流した時には老若男女、国籍もバラバラな人々が交流の輪ができていた……という光景に気付いた七菜がふとこぼした一言。

 

「あたしこの間までビールって何がいいんだろうって思ってたけど」

「ビール楽しいね」

 

 

鼻の下にビールの泡が付いていることにも気付かず満面の笑みを浮かべる七菜。この話でビールとの関係性が大きく変わった、ターニングポイントになる一コマだと思います。

 

ビールというと日本では“飲み会の1杯目に飲むもの”というイメージが先行していて、ここ最近ではアルハラの象徴として語られることもしばしば。けれど、ほかの酒と同じように嗜好性のある飲み物で、人々の交流を取り持つきっかけになるのだと再認識できるきっかけになる、そんなマンガだと感じました。

 

 

4.おわりに

1巻には第5話まで収録されていますが、ここまでできっちり、今後の物語に大きく関わってきそうな人物が登場しています。

七菜の職場の中で唯一、彼女の仕事を正当に評価する早乙女部長(1巻では名前出ず)。七菜が憧れる女優で鉄雄の幼馴染みでもあるMAKOTO。彼女が敬愛する料理評論家で隆一の料理人としての資質を問いかけるグリフ・ハーヴェイ

彼らが今後、主役の3人や物語とどのように絡んでいくかも注目したいところです。

飄々としていながらも実は思慮深い一面を持つ鉄雄。七菜に向けられる眼差しの描写がところどころあって、そういう展開もあるのかなーという期待もあったり、なかったりして。

お酒好きな方にも、そうでない方にもおすすめしたい一冊です。