だう。語りき。

だう。という人が音楽とかプロ野球とかドラクエとかその他自由に語るブログなのだそうです。

アニメ「クッキングパパ」を観たのだ

f:id:nagareboshi1884:20210702205203p:plain


 今更と思われるかもしれないし、もしかすると逆に知らない人もいるかもしれない。兎にも角にも、先月になって初めてアニメ版『クッキングパパを観た。すごく集中的に観た。今回はその感想とか所感とか、書き綴ってみようと思う。

0.私が荒岩さんに胃袋を掴まれるまで

 きっかけはテレ朝の深夜番組「まんが未知」だ。ハライチ・岩井勇気さんと声優の花澤香菜さんがMCを務め、タレントが考えたマンガの原案をプロの漫画家が作品化するというもので、原案を考えたタレントが垣間見せるパーソナリティや、プロの制作現場をのぞき見できるというのが番組の見どころだ。できあがった作品がマンガ配信サイト(アプリ)でも読めるのもポイント。

 そして、この番組はYouTubeのテレ朝公式チャンネルでMC2人のオフトークを配信している。こちらはこちらでMC陣のバックボーンが見られて面白いのだが、ある回でオススメの料理漫画を語っていた。そこで花澤さんが激推ししたのが『クッキングパパ』だったのだ。

 

youtu.be

 

 この回で熱く語られた“荒岩さん”が妙に気になった。そういえばクッキングパパクッキングパパとネタ的に話す事もあるし、あのアゴは鮮明に覚えているのだが、肝心の作品をちゃんと観たことがない。『田中圭一のペンと箸』に収められた、うえやまとち回もちゃんと読んだのに、肝心の作品を読んだことがないのだ。

 

r.gnavi.co.jp

 

 こんなに気になったのならば、一度見てみるべきだろう、そうだろう。しかし私は当時、マンガアプリを全く使っていなかった。さてどうしよう。……そういえば、クッキングパパはアニメもあったという知識はある。幸い、アニメアプリは一つ使っているものがある。これに配信されていたら、試しに観てみることもできるだろう。

 そう思うなり、すぐさまアプリを開いた。調べた。あった。なんだ、あるんじゃん。やったね。んじゃ観てみましょうか。

 

 ……面白い。実に面白い。一話完結型のようだし、サクサク観られるじゃないか。これは飽き性の私にもピッタリだね。うっしっし。

 

 そうやって私はあっという間に、荒岩さんに胃袋を掴まれてしまうのであった。

※以下、めっちゃくちゃネタバレ含むので、その点ご了承ください。

 

 

1.現代に通ずる価値観を先取りした男・荒岩一味

 荒岩さんこと荒岩一味(あらいわ・かずみ)は総合商社に勤めるサラリーマンで、アニメでは主任の肩書を持ち、営業二課のNo.2として現場責任者のようなポジションにある。

 新聞記者の妻(虹子)と小学生の息子(まこと)がおり、23話で長女・みゆきが生まれる。家での料理全般は一味が担当しており、毎日の弁当作りもしっかりこなす。できたオトンたい。

 子どものころから習慣的に料理をしており、腕前はプロ級。そのレパートリーは変わり種のアイデア料理からガチのごちそうメニューまで、和洋中なんでも来いというパーフェクトスタイルだ。しかも自らの腕前を誇示することはなく、むしろ会社内ではひた隠しにしている(一部の部下にはバレてしまうのだが)。一方で子どもたちやその友達らに対しては料理をレクチャーすることも多いのだが、「オラオラオラ俺を見て学べやオラオラオラ」という感じではなく、子どもたちが自分の手で料理することに重きを置き、手順のポイントだけを的確に教えるという教師の鑑のような手法を取る。ほんなこつできたオトンたい。

 家庭の食事をほぼ一手に担っているため、ほとんど残業をしない。劇中、部下に残業を命じることがたまにあるものの、頻繁に残業を迫っている感じはない。だからと言って上司権力で部下を飲みに連れ回すということもしない。部下に厳しく、やり手の営業マンとしての一面も描かれるのだが、物語で目立つのは部下たちの精神的支柱としての側面。課のメンバーで残業中に隠れてアイスを作り「差し入れを買ってきた」と言ってみんなに配ったり、急病で倒れた部下にこっそり食事を作ってあげたり……恩着せがましさのないフォローがあるから厳しい一面があっても部下たちが自然と彼を慕うのだ。ほんなこつできた上司たい。

 

 家庭第一、教え上手、部下にとって縁の下の力持ち的存在……回を重ねて見えてくる一味の人物像は、ここ近年言われている“理想の上司像にしてパパ像”そのもの。しかしアニメの放映は1992年、原作漫画の連載開始に至ってはバブル全盛期でイケイケオラオラの1985年で、35年以上も前なのだ。こんなにも時代を先取りした価値観を持つキャラクターがいるだろうか。そりゃ声優さんもイケメンって激推しするったい。

 

 

2.美味しそうな料理の“リアル”、現代劇が持つ“リアリティ”、悪役がいない“ファンタジー”の取り合わせの妙

 ところで私は“ネタバレOK”の人だ。アニメを観つつ、ネットでその作品のあらすじやら登場人物紹介やらを探して読むことも少なくない。むろん、クッキングパパもアニメを観つつ、Wikipediaで作品の“予習”をした。その時に、漫画原作は作中の時間経過もしっかり描かれている事を知り、原作も読みたいという気持ちが強くなった。アニメでは、みゆきの誕生から少し経ったところで時間経過が描かれなくなったからだ。これはクッキングパパが『サザエさん』や『ドラえもん』、『ちびまる子ちゃん』などのようにファミリー向けアニメとして長期放映されたのが理由だろう(クッキングパパのアニメは3年間で全151話が放送されている)。ファミリー向けアニメは物語の進行を気にせず観られることに重きが置かれ、誰もが共感しやすい日常を描くファンタジーとして成立されるもの。個人的に時間経過のないストーリーは途中で飽きてしまうのでちょっと残念に思ったが、こればかりはしょうがない。

 

 が、全編観終えて感じたのは、アニメ版クッキングパパリアル(現実)とリアリティ(現実味)とファンタジー(空想)が同居していることで、漫画版とは異なった魅力を獲得しているのではないかということだ。

 

 漫画版クッキングパパは毎回、劇中に登場した料理のレシピが紹介され、これが作品の特徴にもなっている。アニメ版でもこのレシピ紹介は踏襲されており、本編終了後にレシピを紹介する「今晩のうまかもん」というコーナーが存在していた。配信ではこのコーナーが丸々カットされてしまっていたのだが、毎回本編中にブタのコックさんが登場し、物語のカギとなる料理をメタ的に紹介するシーンが差し込まれるため、コーナーの存在は見なくても分かるし、劇中の料理が自分の手で再現できるということも分かる。このレシピという存在が、リアルの魅力に繋がっているのだ。

 

 そしてクッキングパパは現代の博多(に限りなく近い街)を舞台にした物語。登場するキャラも商社の営業マンやその家族、公立校に通う小学生など、普遍的な設定で突拍子もないような設定は皆無だ。さらに、原作が時間経過をはっきりと描いたものであるがゆえに、アニメ版でも劇中の時間経過を丸ごと排除することはできなかった。それが、みゆきの誕生であり、一味の部下である田中と夢子の結婚だ。みゆきは回を重ねるごとに少しずつ言葉を覚えて終盤にはちょっとした会話もできるようになっているし、初回から準主役級として登場してきた田中と夢子の結婚は物語終盤のヤマ場となっている。こういった劇中の時間経過は物語にリアリティを与えており、4コマ漫画を10分~15分の尺に引き延ばしたようなファミリー向けアニメとは異なる魅力となっている。

 

 そんなリアルとリアリティを備えたクッキングパパだが、このアニメにもファンタジーの部分が存在している。それは、彼らの生きる世界に“悪役”がいないということだ。まことの同級生・みつぐ君や田中は所謂トラブルメーカー的存在として物語に起伏を与える存在であり、悪態をつく場面こそあれど無論悪役なんて呼べるようなものではない。まことのライバルとしてスポット的に出てきた近藤君もいるが、口ではバカにしていたコロッケをこっそり買っていたり、カナヅチであることを隠してひとり水泳教室に通ったりと、どこか憎めない一面が描かれている。

 現実社会を生きていれば、悪人とまではいかなくとも、いけ好かない人、価値観が合わない人、何かのきっかけで憎たらしさを感じてしまう人、何となく抵抗感がある人など、多かれ少なかれ敵視してしまうような存在は誰にでも一人くらいいるだろう。だが、クッキングパパの世界にはそんな人物は一人として出てこないし、悪い行いをした人々が出てきたとしても一味やまことの料理で改心してしまう。

 アニメを観てると「こんなにいい人ばっかりなんて現実にはないわ~www」などと思ってしまうこともあるのだが、この部分こそクッキングパパの持つファンタジーであり、視聴者に安ど感を与える要素でもあるのだ。

 

 

3.クッキングパパがオトナ路線を辿っていたかもしれない可能性について

 前述したが、このアニメの放映は1992年~1995年。90年代初頭といえば、『三丁目の夕日』や『シティーハンター'91』などといったターゲット層が少し高めのアニメがゴールデンタイムに放送されており、夜の情報番組『ギミアぶれいく』では『笑ゥせぇるすまん』や『さすらいくん』など大人向けのアニメとして放送されていた。さらに、同じ料理モノの『美味しんぼ』が偶然にも、クッキングパパと入れ替わる形で最終回を迎えたばかりだった(美味しんぼは日テレ系列、クッキングパパはテレ朝系列)。最終的には「美味しいホームアニメ」というキャッチコピーを得て一味とまことをW主役とし、子どもから大人まで楽しめるファミリー向けアニメとなったクッキングパパだが、もしかしたら掲載誌のモーニングの雰囲気そのままに、オトナ路線のアニメになっていたかもしれない可能性があったのでは、と思っている。

 それを匂わせていたのは、オープニングのこのシーン。

f:id:nagareboshi1884:20210801005303p:plain

 そう、一味の部下の一人、夢子が福岡名物の“にわか面”をかぶるシーンである。このシーンの夢子は妙に色気のある感じで描かれているし(偏見)、家族で歩く一味の後姿を見つめいているような構図もどこか意味深だ。

 本編では、社内で誰よりも早く一味の“秘密”を目撃するのが夢子であり、一味に対してほとんど好意に近い感情を抱いている。そして一味が、部下らに隠れて作った料理を振る舞う際に「本当は主任さんが作ったんだケド…」と人知れず笑みを浮かべるシーンはある種定番のものとなっており、どこか淫靡だ(偏見)。

 このアニメが放送開始したのは単行本の26巻が出る直前で既にみゆきも生まれており、ファミリー向けアニメのカラーを強める展開を初めから描いていたかもしれない。しかし、しかしオジサンとしては木曜19時台にちょっぴりオヨヨなオトナ路線を放送する可能性も捨てたくないんですよ!分かるか!この気持ちが!ちょっと問題のある要素を入れたくなる、この気持ちが!!!!

 ま、結局夢子はアニメ本編の中で一味への(上司と部下という関係性以上の)好意を否定するんですけどね。ええ。

 ちなみに私はギリで虹子さんのが好みです(聞いてない)。

 

 

4.人たらしなカミーユと、不思議な関西弁のアムロ

 最後に、アニメ的な話を一つ。

 クッキングパパのメインキャストは、一味役が玄田哲章さん、虹子役が勝生真沙子さん、まこと&みゆき役は高山みなみさん。まことが出てくる場面を観ながら「あー、コナンと同じ声優なんだよなぁ」と思い始めると、純朴すぎるコナンが脳裏をちらつく事態になってしまうので注意。

 そして部下の田中役は飛田展男さん。飛田さんと言えば、Zガンダムカミーユである。実際の話、前述の高山さんにしても、飛田さんにしても、クッキングパパを観ながら別作品の役を思い浮かべることはほとんど無いのだが、カミーユがこんなにも人たらしだったらと思うと何かちょっと面白い。

 さらに、一味の義弟で関西出身のフリーカメラマン・根子田敏夫(ねこた・としお)というキャラがいるのだが、こちらは古谷徹さんが演じている。どこか妙な関西弁はアムロ要素ゼロどころか古谷さんがこれまで演じた役としても珍しく、人によっては見どころかもしれない。